水源

建築家(ハワード・ローク)が主人公で、1930年代のニューヨークを舞台にしたお話です。1,000ページを超える長い長い小説です。60年前に出版されアメリカでは非常に有名な小説だそうですが、つい最近まで翻訳版もなかったように、日本ではほぼ無名です。


言っていることは非常にシンプルです。人間として一番不誠実なのは、自分のやりたいことを自分のやりたいようにせず、他人からの評判、評価を行動の基準にすること。「より良く生きたい」という利己的な欲望こそが、人類が新しいものを創造する原動力になってきたとということです。


著者は、人間の欲望、利己主義主義を徹底的に肯定し、無私無欲の精神、利他主義を否定します。

世間一般で言う利他主義とは、他人の「より良く生きたい欲望」の成果をただで掠め取りたい怠惰で無能な寄生虫お自己弁護の思想なのだ。もしくは、何かを生み出せる自分を持っている人間に対して、自分自身の中から湧き上がるものが無い空虚な人間が抱く嫉妬の思想なのだ。(訳者あとがきより)

自分の空虚さを埋め合わせるために、他人へ奉仕する人がいれば、他人から奉仕を集めようとする人もいます。それが権力を求める人です。権力を得ることを目的とする人は、空虚な利他主義者の中でも最悪の部類だと著者は文中でハワード・ロークに言わせています。


20歳ぐらいの頃、他人からどう評価されるか、どちらが得か、誰かと比較しての自分の位置はどうかということばかり気にして、ある時期、非常に辛くて、悶々としていたことを思い出します。年とって、自分のしたいようにすればいいとある程度考えられるようにはなりました。でもハワード・ロークのように世間の流行に左右されず、自分の建てたいものしか設計しない、それで仕事がなくなっても構わないというようには徹底はできるものではありません。


スティーブ・ジョブスなんかもそうだと思うのですが、向こうの人の「他人に嫌われようが、馬鹿にされようが、世間がなんと言おうが、自分の好きなようにやるんだ。」という頑固さの背景にあるものが伺えるなお話です。

水源―The Fountainhead

水源―The Fountainhead