大正が昭和になった頃
戦争前の時代って私にとっては歴史の教科書の中の世界。大正デモクラシー、米騒動、関東大震災、昭和恐慌、戦争に向かってまっしぐら。こんな大雑把なイメージ、どちらかといえば暗い時代。でも、永井荷風の断腸亭日乗なんかを読んでみると今とそんなに変わらない、それなりに楽しそうな時代だと思った。パソコンもテレビもなく道具立ては違うけれども、基本は変わらないように思った。荷風は毎日のように銀座のカフェ=キャバクラのようなところに出かけて、帝国劇場で芝居見物。男女が連れ立って歩いているとお巡りさんに職務質問されてなかなか大変そうだが、そのほかはあんまりかわらない。
「セイビング・キャピタリズム」では1913年と1980年を比較して、どちらが自由な市場が機能していたか比較していたが、意外なことに1913年の方がずっと、企業の資金調達に占める株式市場の比率が高かった。自由主義的な空気があった。大恐慌以降、剥き出しの自由主義に懲りて政府が経済を統制することが多くなり、戦後も80年代まで戦時経済体制が続いた。
世代でいうと、私の祖父、祖母が20歳台で子供が生まれる前。祖父は兵隊に行っていた時に連隊で一番マラソンが早かったという自慢話をよくしていたが、どんなことして遊んでいたかなんかは聞いたことがない。ただ、三つ揃いのスーツと帽子でびしっと決めた写真を見せてもらったことがある。白州二郎とまでは言わないがなかなかかっこよかった。クールビズでリラックスしている私よりもずっとおしゃれ。
二世代前(80年前)の時代の気分、その気になって追いかけてみると今とそんなに変わらないようにも思える。その二世代前になると江戸時代。そう思うと案外近い。その頃はどうだったのだろう。