セイヴィング キャピタリズム

「資本主義を守る」というタイトル。何から守るのかというと、資本家=既得権者だ。


資本主義がうまく機能するためには財産権の尊重や企業の情報公開などインフラが整備される必要がある。自由放任にすれば資本主義が湧いて出てくるのではない。資本主義を成立させるために政府がすべき役割が大きいというのが著者の主張。


競争が盛んにおこなわれることは既得権者にとっては、非常にしんどいこと。なんとかして新規参入を制限して既得権者を優遇するような制度に変えたいというのが人情だ。不況期になって市場の競争に敗れる人が多くなると、既得権者は市場競争に敗れた者たちと連携して、自由競争を制限するような制度に変えようとする。敗れた者たちの声は政治的に大きな声になりやすいので彼らの声を利用するのだ。


世界的に資本主義が発達にたのは2度ある。1920年代の大恐慌までと1990年代以降だ。金本位制のもとでの自由な資本移動が可能になったことで1920年代には市場主義が主流となった。各国の株式市場は繁栄し、世界貿易も盛んになった。大恐慌から第2次世界大戦、戦後1980年までは自由主義はなりをひそめ、「リレーションシップエコノミー」=既得権者を優遇=保護主義的な時代となる。もともとは、大恐慌への対応すること、戦時体制を構築するために一時的な措置だったはずが、戦後20年以上も続くこととなった。


1990年代には資本移動の自由化を契機にようやく、自由市場主義が主流となる。


しかし、2001年のITバブル崩壊、昨年のサブプライムローンショックを経て自由主義への不信感が再び高まっている。自由な競争状態に常にさらされることは確かにしんどい。


著者は資本主義を守るためにすべきこととして以下の三つを挙げている。

  • 自由貿易、資本の移動の自由をまもる。→外国との競争状態を維持
  • 個人へのセーフティネットの確立→企業を倒産から守って、非効率な産業を保護するのではなく、直接個人の生活を支援する体制を作る
  • 企業の経営状態が誰にでもわかるように、情報開示を保証する制度を作る


自由な競争は、イノベーションを促進し、効率的な企業を残し非効率な企業を退出させることで経済成長率を高めるかもしれない。でも、個人として明日はどうなるかわからない不安定な状態におかれる。それよりも、貧しいながらも安定した社会がいいという選択もありえる。

今の時期だからこそ非常に刺激的、いろんなことを考えるきっかけになる本だ。

セイヴィング キャピタリズム

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