大不況には本を読む

橋本治の本はときどき読みたくなる。タイトルにはあんまり惹かれるものはないし、内容も理屈っぽくて、まだるっこしい議論が延々と続いて読んでいる途中でいやになることも多いのだが、思わぬ視点を提示されて驚く。だから時々読みたくなる。読まねばと思う。


この本もタイトルを見ただけでは何の本なのかよくわからない。本文も「出版業界は不況に強い。」という今となってはどうでもいいようなところから書き始めているので、読むの止めようかと思ったが最後まで読んでよかった。経済の本です。産業革命以降の資本主義経済がリーマンショックに端を発する世界金融恐慌で行き詰ってしまっているというのが、著者の現状認識。そもそも、産業革命で自国内では消費しきれないくらいの商品を生産することが可能となり、その商品をアジアなどの発展途上国へ売りつけて市場を拡大してきたのが今までの流れ。日本も明治維新から産業の近代化を進め、第2次世界大戦の敗戦で一度は焼け野原になったけれど、モノづくりに励んで、せっせと輸出で巨額外貨を稼いで1985年には欧米を追い越して、国民全員が豊かだという意識を持つ社会を実現してしまう。


一国だけが貿易黒字を稼いで溜め込んでいては、世界中にお金が回らないので、日本は稼いだ外貨で外国からモノを買って内需を拡大すべきだという圧力が欧米からかかる。世界の経済発展のために自分たちの生活に本当に必要かどうかはわからないものを輸入しなさいという運動が国をあげて行われる。その時、輸出が多すぎるからそれに見合う輸入をするという選択肢のほかに、自ら輸出を減らすいう選択枝もあったはずだという。しゃかりきになって働いて輸出して外貨稼いで賃金が高くなって、その結果安い賃金をもとめて工場が海外に進出してしまうくらいなら、輸出品の値段を高くして輸出を減らしてしますという選択もあったはずだという。資源の制約、環境問題を考えれば、無限の経済発展は不可能だし、その限界が明らかになったのが世界金融好況なのだから、この大不況時には、150年間の日本の資本主義を見直して、自分の頭で今後の社会をどうするか考えてみようというのが本書の趣旨。

大不況には本を読む (中公新書ラクレ)

大不況には本を読む (中公新書ラクレ)