ナチを欺いた死体 英国の奇策・ミンスミート作戦の真実

イギリスの諜報機関が、死体にウソの情報(連合軍が次に上陸作戦を展開するのはバルカン半島だ。)を書いた機密文書を持たせて飛行機事故を装ってスペインの海岸近くで海に流す。海岸に流れ着いた死体から押収された文書がナチスドイツの手に渡り、ナチスはそのウソの情報を信じて、バルカン半島へ戦力を移動させる。連合軍は手薄になったシチリアへ上陸作戦を仕掛け成功させる。


これがミンスミート作戦。この本はミンスミート作戦についてこれまで明らかにされていなかった事実も含めて全貌を辿る。


仕掛ける側の準備の入念さにまず驚く。死体に持たせる機密文書はもちろん。兵士が私物として持っているであろうプライベートの手紙、レシート、写真まで、その人物のキャラクターを想定してそれにふさわしいものを数ヶ月かけて準備する。恋人との手紙は、女性にそれらしく書いてもらい、父親からの手紙は、父親がロンドン滞在中にホテルから送ったことにすると、ホテルの宿泊者名簿にその架空の人物の名前を書き込んでおく。


死体がスペインに到着してからも、機密文書が紛失してイギリスがあせっていることを装うために、なんとしても文書を奪回するよう指示する電信をわざとドイツ側に読まれることを想定して送る。外交官もあたふたしているふりをする。無事ドイツに偽の文書が渡ってからも、イギリス側はそれとは気づかないふりをする。隅々まで辻褄の合うウソをつくというのは何と大変なことだと思った。


著者はこの作戦が成功した理由はイギリスの入念で精巧な準備にあるのはもちろんだが、ナチスという組織がもつある傾向が助けた面も大きいという。それは、トップへの「追従」と「希望的観測」だ。ヒトラーはもともとバルカン半島の石油などの資源を連合軍に押さえられたら致命的だと思っていたそうだ。ヒトラーが考えていることに合致するような情報が報告されやすいのだ。少し変だなと感じることがあっても、ヒトラーの見解にあわない情報は無視され、希望的観測を信じ込む。希望的観測にもとづく追従情報がいろんなところからどんどん報告されるようになると、それらの情報がお互い同士で補強あうことでますます信憑性を増し、だれも裏を確認しなくなる。


ミンスミート作戦でも、ゲッペルズなど偽の情報だと疑っていた人もいたそうだが、全体としてはヒトラーに受けのいい話しか耳にはいらなかった。


うーん、あるある、こんな組織。どっかで聞いたことある。

ナチを欺いた死体 - 英国の奇策・ミンスミート作戦の真実

ナチを欺いた死体 - 英国の奇策・ミンスミート作戦の真実