チャター 全世界盗聴網が監視するテロと日常
エシュロンという名前で知られる、アメリカ、イギリスを中心とした全世界盗聴網の実態について明らかにしていきます。著者は、関係者に会いに行ったり、過去に盗聴施設だったところを訪ねたり、古い公文書にあたったりして調べていきます。政府が存在を認めないのでホントのところはわからないのですが、組織の規模の大きさに驚きます。
NSA(National Security Agency:国家安全保障局)という機関は、電気的な盗聴行為を担当する役所であって、多くのアメリカ人に存在すら知られていないにもかかわらず、CIAやFBIをあわせた規模より大きい。比較の問題で言えば、この有名な2つの機関は取るに足らないのだ。CIAの職員数はざっと2万人、年間予算額が30億ドルに対して、NSAは6万人を擁し、年間予算は60億ドルに達する。
著者は、盗聴網を全能の神であるかのように、その能力を過大評価すべきでないといいます。世界中のどんな会話も盗聴できる技術があったとしても、膨大な会話を分析し、意味ある情報を抽出するのは人。ネットや携帯電話で世界を駆け巡る情報量が飛躍的に増加して、分析を自動化したとしても処理しきれないといいます。また、事件が起きてしまってから、後付で事件の前触れとなる会話をつなぎ合わせることはできても、事前に会話の内容からテロが起きることを予測し、それに対処することは、地震予知と同じくらい難しいそうです。
他人の目によるチェックがないため、費用に見合った効果があるのか評価できず、どんどん予算が膨らんでいくことが問題、諜報機関のレポートの大部分は、誰でも利用可能な公開情報から知ることができるとも指摘します。
著者の立場は、盗聴網を全く否定するわけでなく、安全保障とプライバシー保護の間のバランスをどうやって上手くとるかが重要だと、あくまでも冷静です。冷静すぎて途中で少し退屈しましたが、盗聴網の概要を知るにはいい本です。
日本に潜伏するスパイへの連絡だといわれた、深夜の乱数放送を聞いたことある人におすすめ。
- 作者: パトリック・ラーデンキーフ,Patrick Radden Keefe,冷泉彰彦
- 出版社/メーカー: 日本放送出版協会
- 発売日: 2005/11
- メディア: 単行本
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