戦争における「人殺し」の心理学

妻が子供をつれて実家に里帰り中なので、久しぶりに一人で週末を過ごしました。土曜日は呆けたように1日テレビを見ていました。日曜日は、買ったきり読んでいなかった本をひっぱりだして読みました。


「戦争における「人殺し」の心理学」は、アメリカ陸軍の軍人さんが、戦場での殺人について書いた本です。戦争が良いとか悪いとかを抜きにして、殺人について淡々と書かれていて迫力があります。以下内容のメモ。

  • 人は、本来同種である人を殺すことに対し強烈な抵抗感をもっている。戦場でも、できるだけ発砲しない、敵をはずして撃とうとする。第2次大戦に従軍した兵士のうち実際に発砲した兵士は、15%−20%に過ぎない。
  • 殺人への抵抗感は、敵との物理的距離、社会的距離、文化的距離が近いほど、高くなる。飛行機の爆撃手は、多くのの人を殺すことになるが、物理的距離があるため、抵抗感はそれほど高くない。
  • 兵士の殺人への心理的な障壁を取り除くためにとった訓練手法が、脱感作、条件付け。脱感作とは、訓練の中で、殺人を言葉に出したり、殺人の場面の映画を見せたりして慣れさせること。条件付けは、実際の戦場に近い状況の中で、人の形をした的を見たら、考えるまもなく発砲するこ訓練を繰り返し、良い成績を上げればなんらかの、褒美を与える。これらの訓練により、ベトナム戦争での発砲率は90%以上と劇的に上がった。
  • 戦場で人を殺した兵士は、罪悪感にさいなまれる。彼らは、殺人したことを一生かけて、なんらかたちで合理化しようとする。うまくいかないとPTSDになる。そのために、勲章や凱旋パレード、毎年の戦没者追悼式で、兵士たちは、社会のために役立ったんだということを示すことが必要。ベトナム戦争では、反戦運動から、帰還兵への非難が強くなり数十万人がPTSDとなった。
  • 映画の暴力シーンは殺人の脱感作を、シューティングゲームは殺人への条件付けを青少年に対して行うのと同じことである。これらは、将来の犯罪の増加につながるので規制しなければならない。


この本は、戦争を賞賛している訳ではありません。戦争の実際について知ることができます。この本を読んで、靖国神社のこととか、自衛隊の海外派遣についてもいろいろ考えさせられました。

戦争における「人殺し」の心理学 (ちくま学芸文庫)

戦争における「人殺し」の心理学 (ちくま学芸文庫)