毛沢東 上 ある人生
毛沢東の伝記の前半、中国共産党の長征が終わって日中戦争開始までの部分です。淡々とした記述ですが、ドラマチックな語り口はなくとも、軍閥、蒋介石の国民党、欧米諸国、ソ連、日本、共産党内の対立等のパワーバランスを掻い潜って、共産党の勢力を拡大し、共産党内の権力を掌握していく過程の緊迫感がヒリヒリと伝わってきます。その中には、党内での血みどろの粛清の詳細な様子も出てきます。
国民党に包囲されて、党をなんとか温存させるために江西省、福建省の拠点を捨て長征に出かけ時には、圧倒的に不利な状況であり、しかも毛沢東本人の党内での地位はそれほど高い訳でもない。長征の過程でも軍勢をどんどん減らしていきます。出発したとき8万人だった軍は、延安にたどり着いた頃には1万人へ減っていたそうです。
ところが、毛沢東は優れたゲリラ戦の指揮官として戦果を上げていく中で、党内の権力を掌握していきます。また、日本の中国侵略に対して国民党が断固として抵抗する姿勢をを示さなかったことが、共産党が中国国民の支持を集める要因になったようです。
上巻の最後一文が印象的です。
蒋介石が協定に乗り気でなかったのは無理からぬ話だった。十年にわたってかれは共産党を中国政治から排除し、野に留めることに成功してきた。その共産党が全国的な指示基盤と政治要項と国家的役割を備えた合法的な政党として表舞台に舞い戻ってきたのだ。毛には、権力への道が開かれた。毛には、権力への道が開かれた。数十年後に毛は、戸惑う田中角栄首相に対してこう述べた。その道を開いたのは日本なのだ。
- 作者: フィリップショート,山形浩生,守岡桜
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