父 吉田健一

吉田暁子さんが、父である吉田健一との思い出を綴った本。

 

吉田健一の旅の随筆を読むと、汽車の乗る前から銀座の小川軒で酒を飲み始めて汽車の中でもずっと飲み続けて、目的地の宿に入ってからも飲んで、次の日も飲んで、帰りの汽車の中でも飲む。とにかく呑んだくれてばかり。普段の生活でも毎日相当な量を飲んでいるイメージがあったが、この本によれば、普段の日は家では酒を飲まなかったようだ。

 

ただし、健一は週に一度外に出かけて飲む日があって、その日は家に帰って奥さんや暁子さんを相手に静かに飲み直していたことが書かれている。また、暁子さんが20代の頃、雪の降る日に何かの用事でふたり出かけて、帰りに銀座の辻留に立ち寄りサシで飲んだことも大切な思い出として「早過ぎた雪見酒」に書かれている。

 

父親とサシで飲んだことあったかなと、自分のことを振り返ってみる。高校から家を出ていたので、たまに帰省した時に母や弟夫婦、私の家族とご飯を食べて酒を飲む機会はたくさんあったが、父と2人っきりでじっくり話しながら酒を飲んだことは一度もなかったように思う。仕事がら若い時から外で飲むことが多かったからなのか、私が酒を飲むようになった頃には、家で飲むほうがいいと言って、2人で居酒屋に行ったこともない。ふたりで飲んだのは、母が出かけた休日に父が冷蔵庫からビールと竹輪、押入れから焼酎の一升瓶を引っ張り出してきて、竹輪をかじりながら、焼酎をビールで割って飲んでいる時に、ご相伴に預かったくらいだ。テレビを見ながらだったので大した会話もなかった。今更言ってもどうにもならないのだが、無理矢理機会を作ってでも2人で飲みに行けばよかっと思う。

 

父・吉田健一