私的昭和史 桑原甲子雄写真集
この写真集、見始めると1時間くらいあっという間に過ぎます。
昭和10年頃の東京の街の写真です。ふらりと街を散歩しながら、その頃の東京の日常を切り取った写真。看板の文字や人々の服装をじっくり見ながら、子どもの頃、親に連れて行ってもらった東京の様子と重ね合わせて雰囲気を想像していると、自分が当時の街を歩いているような気分になってくる。
表紙の写真は昭和11年2月27日の午後の馬場先門あたりの写真。つまり二・二六事件の翌日。著者が和服の袖にカメラを隠しながらこっそり撮影したそうだ。その日の霞ヶ関や日比谷の写真が他にも何枚かあって、警視庁の玄関前には反乱軍の兵士の姿も写っている。戒厳令下のものすごく緊迫した中での写真で身構えた。しかし、他にも歩いている人がたくさん写っているので、戒厳令下といっても普通の人にとっては案外のんびりしていたのかもしれない。
196ページの薬屋の店先の写真も強烈。「強力毛生剤」、「南京虫全滅液」、「わきが」、「最新リン病治療薬」、「タバコがホントにキライになる新剤」、「性具 衛生サック」、「諸毒下し体質改善」、「皮膚病大妙薬」などなど、えらく直接的な表現の看板で店先が埋め尽くされている。
秋葉原にあった青物市場や、完成したばかりでピカピカの築地市場の写真もある。
とにかく、一枚一枚じっくり見ていると楽しくて時間を忘れる。下巻は戦前の満州と戦後の東京。こちらも是非見たい。