最後の「天朝」下 毛沢東・金日成時代の中国と北朝鮮
中国と北朝鮮の関係の深層に迫る長大な本。下巻はソ連でフルシチョフがスターリン批判をはじめた1956年から毛沢東と金日成が最後に会談した1975年までを扱う。
スターリン批判後のソ連とも袂を分かち、資本主義の親玉のアメリカとも対立した中国にとって唯一とも言える友好国が北朝鮮だったので、建国以降一貫して中国は北朝鮮の経済的支援、軍事的支援の要望はほぼ丸のみして叶えている。中国が自国で小麦を確保できないときは他国から輸入してでも北朝鮮へ融通している。
また領土に関しても毛沢東は大幅に譲歩する。1964年には中国の領土であった白頭山と天池周辺の土地を北朝鮮へ譲っている。さらに毛沢東は金日成に対して、中国の東北地域は朝鮮の後背地であり、戦時には自由に使って良いと何度も言っていたそうだ。
著者によれば、毛沢東は中国の皇帝の伝統的な世界観を持っていたという。この世界全体の支配者は中国の皇帝であり、周辺国は中国への帰依を表明しさえすれば、国境がどうこうなど細かいことは気にしないのだ。とにかく中国は北朝鮮を自分の側につなぎとめるのに必死だったのだ。しかし、金日成はソ連と中国との間で等距離外交を続け、両国から最大限の援助を引き出す。
1975年に中国とアメリカの関係が改善してからは、アメリカの後ろ盾を持つ韓国と中国との間の緩衝地帯としての北朝鮮の役割は薄れるが、ここでも中国は北朝鮮の顔を潰さないように最大限の配慮を続け、アメリカに対して韓国からの撤退と日本を朝鮮半島に入れないことを主張し続ける。
1975年の毛沢東と金日成の最後の会談は、本書では会話として再現されている。なんとか政治の話に持ち込んで自国の立場を主張して毛沢東の同意を得ようとする金日成と、もう私も年老いて目も足も悪くなったなどといって話題を逸らそうとする毛沢東。なまなましい。
現在の中国にとって北朝鮮はどんな国なのだろうか。冷戦時代のようにアメリカやロシアと一触即発というわけではないが、世界の覇権を巡ってアメリカとは対立しているのは変わらないし、ロシアとはあまりいい関係ではないようだ。米朝首脳会談でアメリカの北朝鮮への影響力が高まるのは決して面白くないはず。北朝鮮はアメリカと中国との間で最大限の経済援助を引き出すような状況に持ち込みたいのだろうか。