1997年−世界を変えた金融危機
大手の銀行や証券会社が次々と倒れた1997年から98年にかけての日本の金融危機と東アジアの通貨危機を「ナイトの不確実性」の観点で説明します。フランク・ナイトは不確実性を2つに分類しました。第1のタイプはそれが起こる確率分布を思い描くことができるもの。これを「リスク」と呼びます。第2のタイプはそれが起こる確率分布を思い描くことができないもの。これを真の不確実性といいます。
リスクは確率分布がわかっているのでヘッジできます。しかし、真の不確実性はそれがどんな確率で発生するかわからないため、ヘッジすることはできず、真の不確実性に直面した場合経済主体は過度に悲観的な行動をとってしまいます。1997年の日本の金融危機は、大手金融機関の廃業という真の不確実性に直面して皆が過度に悲観的になり、一番安全な現金を手元に確保しようとした結果、貸し渋りのスパイラルに陥り危機が拡大したとのことです。その場合に政策当局が取るべき対応は、とにかく銀行にふんだんにお金を貸して充分な流動性を供給することのはずが、十分に行われなかったために不況が長引いたそうです。
アメリカは日本の失敗から学んで、1998年のヘッジファンド(LTCM)の破綻、2001年のITバブル崩壊、昨年のサブプライムローン危機の際には、市場へ即座に大量の資金を供給することで市場の過度に悲観的な行動を相殺しようとしてきたとのことです。
ナイトによれば、真の不確実性を前にして人は、過度に悲観的にもなれば、過度に楽観的にもなるとのこと。市場全体が過度に楽観的になるとバブルです。また、不確実性を前にして過度に楽観的な人こそが企業家となり、不確実性が利潤の源泉です。どうなるかわからんことに賭けることができる人が企業家となれるとのこと。
確かに、真の不確実性こそが経済の実態を動かしていく力のように思いますが、そんなものは経済学の土俵で分析できるようなものなのか、なるほど真に不確実なもので経済は変動するかもしれないけれど、事前には真に不確実かどうかわからないものをどうやって予測できるのかと思いました。
- 作者: 竹森俊平
- 出版社/メーカー: 朝日新聞社
- 発売日: 2007/10/12
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