謎の独立国家 ソマリランド
恥ずかしながら「ソマリア」がアフリカのどの辺にあるのか知らなかった。内戦や飢餓で大変なことになっているという印象しかない。著者の高野さんが言う「リアル北斗の拳」の世界。そんなソマリアの北部を「ソマリランド」という謎の独立国家が20年近くに渡って支配し平和を保っている。その隣には海賊が支配するブントランドという国もあるという。高野さんはこのソマリランド、ブントランドを訪問する。
ソマリアは遊牧民が多く氏族を中心に社会が運営されてきたそうだ。1991年にアイディード将軍によって前政権が倒れた後、内戦状態になるが、北部では各氏族の長老があつまって話し合いをして内戦を停止、現在はソマリランドという別の国を作っている。
面白いのは、内戦の停止も国家の運営も、国連や西欧からの押し着せでなく、徹底的に土着の「氏族」を基盤とした枠組みで、彼らが勝手にまとめあげているところだ。実際ソマリランドは国連にも加入していないし、何処の国からも承認されていない。
氏族社会の基礎となるのは、「ヘール」というソマリの掟。ヘールでは、氏族間の争いの解決方法などが決められている。女性、子供、傷病人、和平の使者、捕虜、賓客、共同体の指導者、宗教的指導者は紛争時にも殺してはいけないことや、成人男性1人を殺害したら、ラクダ100頭、女性なら50頭を、償いとして氏族間でやりとりすることなどが定められている。ソマリランドはヘールに則って、氏族間で徹底的に交渉して、契約して統治の方法を下からまとめ上げている。
ソマリの民主主義はちがう。「下からの民主主義」なのだ。それは国家とは無関係に機能する。定住民の感覚でいえば、まず村と村、つぎに町と町、それから県と県・・・というふうに規模の小さいグループから大きいグループという順番で、和平と協力関係が構築され、それぞれの権利が確保され、最後に国が現れる。
こんな国家もあるのかと知るだけで、閉塞感が開放される。選挙の前に国のあり方を考えてみたい人にお勧め。
- 作者: 高野秀行
- 出版社/メーカー: 本の雑誌社
- 発売日: 2013/02/19
- メディア: 単行本
- 購入: 2人 クリック: 42回
- この商品を含むブログ (64件) を見る