幕末百話

明治35年に、報知新聞が当時の古老に幕末の頃の思い出話を聞き取りして連載記事としてまとめたものです。


江戸の庶民の生活がよみがえってくるようです。町人が無理難題をふっかけてくる武士に困らされる話。逆に、威張り腐った武士に町人たちが束になってかかって懲らしめる話。歌舞伎役者のうわさ話や、吉原で無茶した話が何度も登場するのは、その頃の人達の関心が高かったからでしょうか。


面白かったのは、お茶壺道中のために京都まで往復した武士が、行く先々で豪勢な接待にあったことを懐かしんでいる話や、奉行所につとめていた人が、裁きひとつ出すにしても過去の判例を調べなくてはいけなくて大変だったと振り返っている話。今の交番にあたる「辻番」というところに詰めている人が、通りかかる人達がうるさいと叱るのですが、相手が町人だと「黙れ。」武士だと「黙らっしゃい。」と区別していた話などです。


全体を通じて印象に残ったのは、やたら簡単に人が死ぬこと。武士が無礼だといって町人を斬るし、武士同士でもいざこざがすぐ刃傷沙汰になる。やられたら、時と場所をかえて仕返しのため殴り込みに行く。ちょっとおかしなお侍さんは、夜中に通りがかりの人を無差別に斬りつける、辻斬りもあったそうです。コロリでたくさんの人が死んだので、大阪に避難しようとした話もあります。


幕末の頃を知る人に直接聞いた話なので臨場感あります。まさに、落語の世界です。


増補 幕末百話 (岩波文庫)

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