浮世に言い忘れたこと
三遊亭圓生の随筆集。昭和を代表する名人と称される落語家。
居間のテレビでYouYubeが見られるようになってから、暇を見つけては圓生の落語を見ている。「百川」、「盃の殿様」、「死神」あたりがお気に入り。ゲラゲラと笑う訳ではなく、しみじみと面白い。YouTubeで落語を聴こうとしてたまたま見つけたのがたまたま圓生だったというだけで、色々聴き比べたわけではない。でも、はにかみながらニコッと笑った時の表情が好きだ。出囃子が終わる瞬間と、座布団に座り終わる瞬間がいつも一致しているのが見ていて気持ちいい。噺の途中で湯飲みから茶を飲んだり、手ぬぐいで口元を拭う所作がいい。
この本は、圓生が自らの生い立ちや、芸人仲間のこと、食べ物のことなどを書き留めている。いたって真面目で地味だ。芸人らしい破天荒なところがない。真面目に稽古して芸を磨いて、自分で稼げるようになるべきだと文中で何度も言っている。本を読むのが好きだったらしく、電車の中ではいつも本を読んでいたらしい。また、休みがあれば映画やお酒に出かけるのでなく、お線香のいい香りが漂う座敷にこもって本を読んでいたいとも書いている。
1900年生まれで1979年に亡くなっている。5歳の頃から子供義太夫語りとして舞台に立ち、9歳で落語家に転身。江戸の頃からの落語家に直接教えを受けているので、江戸の雰囲気が肌感覚でわかる人だ。なにせ魚市場といえば日本橋。築地に移転して江戸の風情がなくなったと言うのだから。
そう思うと市場が豊洲に移って、築地の伝統が失われて残念などと言うのもどうだかなと思う。