無形資産が経済を支配する

 経済の停滞と格差拡大が長期に続いているのは何故なのか? 

 

この問題に対して、著者は、「投資における無形資産の重要性が増大しているから。そして無形資産の重要性が増しているにもかかわらず、既存の会計制度では無形資産の実態を把握することができず、また、無形資産の持つ4つの特徴のために、社会全体として十分な投資がなされていないから。」と言う。

 

無形資産とは何か。わかりやすい例は、特許や著作権、デザインなどの知的財産だ。また、企業独自の製造ノウハウ、ブランド価値、従業員の能力なども無形資産だ。このような無形資産は、企業がソフトウエアや新技術の開発、生産技術tの改良、従業員への研修、市場調査とブランディングに投資することによって生み出される。

 

無形資産には、建物や機械装置などの有形資産にはない4つの特徴がある。

  1. サンクコスト(埋没費用)となることが多い。
  2. スピルオーバー(波及効果)を作り出す。
  3. スケーラブル(拡張可能)である。
  4. シナジーを持つ傾向にある。(他の何かと組み合わせると価値が高まる。)

このような特徴を持つため、無形資産は、機械装置と違って他者へ転売しにくく、無形資産への投資はリスクが高い。また、自社で技術を開発し特許を取ったとしても、その技術を独占することが難しい。人の移動などによって、どうしても他者も利用できるようになってしまう。さらに、拡張可能であるため、成功した場合の儲けは大きいが、勝者が総取りとなりやすく、出遅れた企業が無形投資する意欲が削がれる。シナジー効果はあるものの、何と組み合わせると価値が高まるかは、事前にはわからない。

 

よって、経済成長にとって無形資産の重要せは高まっているものの、無形投資は過少となる可能性が高いのだ。

 

そこで、行政の役割としては、企業が安心して無形投資を行えるように知的所有権の制度を整備する。また、スピルオーバーの効果を地域に留めておけるように地域に関連産業のクラスターを振興する。さらに、シナジー効果を生み出す基盤となる、企業同士の交流や人材育成などを促進することが重要なのだ。

 

私にとっては、無形資産というキーワードで長期的な経済の停滞と格差拡大を整理できたこと、また、行政がなぜ研究開発や技術交流などを促進しなければいけないのか、その根拠となる視点を得ることができて良かった。

 

コロナでしばらくは経済が停滞するけれど、この時期に投資、特に無形資産への投資をできるかが、企業が成長するかどうかの分かれ目になる。