迷うことについて
「隔たりの青」というタイトルのエッセイと、彼女の家族や恋人、友人のことをふりかえるエッセイとが交互につづられる。東欧から祖母がアメリカへ移民したあとの波乱の人生、ネバダの砂漠の一隅に引きこもる恋人を訪ねたこと、友人が自殺したことなど。
衝撃的な事件もある。人が生きていれば、誰にでもあるだろうなと思う出来事もある。それぞれ、何が起こったのかはもちろん、そこに至るまでの経過、本人との関係の変化が伝わる。表現がうまい。例えがうまい。ありありと伝わる。
全編に通底するテーマは表題の「迷うことについて」。道に迷う、人生に迷う。著者は、人は迷うことを恐れすぎではないかと言う。迷う=自分を失うことは、世の中の常識や制度、地図で把握できる部分からはみ出して、むき出しの世界と直接対峙すること。自分を全てさらけ出して、状況に任せる。迷っていることを自覚して、迷うことに慣れるべきだと言う。
突然だが、私の妻は迷うことが得意だ。出かける時は行き先の詳しい状況は調べないし、どうやっていったらいいかも適当なままとりあえず出かける。スケジュールも適当でいった先で面白いものを見つければ、気がすむまでそこで時間を過ごす。一方私は、どんなところか調べて、行き帰りの交通手段と所要時間を調べて、スケジュールまできっちり想定しておかないと安心できない。最初は、妻のあまりの適当さ加減に呆れて、イライラしていたが、ある時から、これはこれでいいと思えるようになった。道に迷ったら素直に人に聞けばいいだけの話だし、予定の時間を過ぎても、面白いと思った場所で、心ゆくまで楽しんだ方が実り多い。それで、帰りの電車に乗れなくても、大した問題ではない。そう思えるようになるのに20年かかったけどね。
なぜだろう、女性のエッセイは切れ味が鋭い。須賀敦子さんを初めて読んだ時のような衝撃。説教臭くないのがいいのかもしれない。自分が体験したことを足場に、感じたことを感じたままに語るのがいい。