フラクタリスト マンデルブロ自伝
単純な式から驚く程複雑な図形が生まれるフラクタル幾何学、単語の進出頻度や株式市場の価格変動を調べると出てくるベキ分布。マンデルブロは数学、工学、経済学など分野を超えて活躍した人。この本は彼が自ら書いた自伝。この本の最終稿に手を入れていた2010年に亡くなっている。
一族の出自はリトアニアのユダヤ人。ただし、彼が生まれた時は一家はポーランドで暮らしていた。19世紀から20世紀にかけての政治情勢に翻弄されて両親は6度も全てを投げ出して新天地に移るはめになる。第2次世界大戦が終わったときにマンデルブロの進路を決めるときに、おじさん2人と父親が集まって相談する。
世界中のたいていの国も、今はすっかりめちゃくちゃだから、これから先どうなるかは、誰にもわからない。ミシェルの予想は軽卒だ。それに、ロシアがフランスで共産主義者を助けて政権に就かせたら、おまえはまた生活を引き払ってよその国へ移らされるはめになるかもしれない。今後はブラジルか、それともアルゼンチンか、まるで見当もつかない。母さんと私は結婚してから六回も、自分たちではどうにもならない出来事のせいでひどい目に遭ってきた。それから、基本的なことを忘れてはいけない。教授というのは公務員なのだ。なにか問題が起きたら、母さんのようにそれまでの資格が通用しない外国に行くことになるかもしれない。国からお墨付きをもらっている分野や大きな国家機関にはかかわるな。教育や医療や法律などは災いのもとだ。幅広い工学の技能を身につけろ。どこの国のどんな政治体制でも必要とされるから。
子供の進路を決めるときにそこまで考えるかと驚いたが、30年後を思うと世の中がどうなっているかなんて誰にもわからない。世界中どこでも通用するものを身につけておくというのは確かに大事。今ならコンピュータを使いこなす技術も重要か。いざとなれば、どこにいっても食っていけるという自信があれば、判断を誤らないだろう。
マンデルブロの父親は、常に最悪の事態に備えよ、何かあったときには群れるな。と教えます。ナチスが勢力を拡大するときには、それまでの生活基盤を全てなげうってフランスに移ります。フランスがナチスに占領されたときもいち早く南に逃げ、家族が別れて山間の小さな村で身を潜めます。
マンデルブロの群れることなく、学問の垣根を越えて新しい分野に切り開いていく行動につながっているのかもしれません。