本を買いに福井まで

福井駅の近くにあった勝木書店が閉店になって、その店に在庫していた大量の岩波の本が、同書店の新二宮店に持ち込まれお店に並んでいると聞いたのが10月の始め。冷やかしに行こうと思ったのだが、なんやかやと踏ん切りがつかず12月になってしまった。
 
 
今日は特に予定もないので、遅ればせながら福井まで行くことにした。のんびりと電車で行って、文庫や新書を物色して帰りに福井駅前で本でも読みながら、昼飲みしてこようという魂胆。
 
妻には福井に本を探しに行くとだけ伝えて、金沢駅まで送ってもらう。午前9時30分の福井行き普通列車に乗る。車内は席がちょうど全部埋まっているくらいの混み具合。北陸の冬特有の灰色の雲に覆われて雨がしとしと降る。景色を見ていても気が滅入るので、ようやく半分まで読み進めたブルース・チャトウィンの伝記を読み進める。途中、松任から小松まで居眠りする。約1時間30分で福井駅に到着。
 
ここからえちぜん鉄道三国芦原線に乗り換える。白地に青い模様の車両が1両だけの電車。福井駅から三国港までを約50分で結ぶ路線だ。車両に乗り込むと意外とお客さんがたくさん。三国でカニを食べようと、ガイドマップを広げる年配の男性の6人組など、観光客が7割ほど。残りは高校生やご老人など地元の人たちだ。アテンダントと称する若い女性の車掌さんも乗っていて、料金の徴収や簡単な観光案内をしている。ちょっと込み入った話になると、シュッとしたユニホームに身を包んでいるが、観光客にオススメの店を聞かれると、のんびりした響の福井訛りが飛び出して車内が和む。
 
私は、福井駅から8っつ目の八島という駅で降りる。グーグルマップでは駅から本屋さんまで歩いて3分とあるけれど、どっちの方向に歩いて行ったもんやらと思いながら、八島で降りた5人ほども人が歩いて行く方向について行くと、すぐにショッピングモールと、その中の本屋さんの看板を見つけた。
 
岩波書店の本のコーナーは、2階の奥にあった。文庫も新書もこれだけ大量に並んでいるのは初めて見た。何が欲しいのかわかっているときは、ネットでも買えるのだが、特に目的もなく、背表紙を見てなんとなく手にとって、立ち読みしながら本を選べるのはやはり楽しい。
 
今回買ったのは、この6冊。
開高健短篇選 (岩波文庫)

開高健短篇選 (岩波文庫)

  • 発売日: 2019/01/17
  • メディア: 文庫
 

 

続審問 (岩波文庫)

続審問 (岩波文庫)

 

 

意識と本質-精神的東洋を索めて (岩波文庫)
 

 

言語―ことばの研究序説 (岩波文庫)

言語―ことばの研究序説 (岩波文庫)

 

 

ブッダが説いたこと (岩波文庫)

ブッダが説いたこと (岩波文庫)

 

 

 また、積読本が増えて妻に嫌な顔をされそうだけど、我ながらいい選択をしたと一人で満足する。

 
八島の駅まで戻ると、ちょうど福井駅行きの電車が入ってきたところ。乗り込むと高校生で満員。行きの電車のアテンダントさんと同じ人だった。三国まで行って戻ってきた電車に乗ったらしい。電車が走り出すと、アテンダントさんにどちらまでと聞かれて、料金を支払い、整理券と引き換えに乗車券を受け取る。なんとも、人手だのみのアナログな方法、プリペイドカードにするとか、車内に切符の自動販売機を置くとか、いろいろ合理化できることはあるだろうにとも一瞬思ったが、自動化のための設備投資の金額やら、すでに雇っている従業員のことなど、いろいろ考えてこのやり方に落ち着いたのかもしれないと考え直す。車掌さんが乗っていると、なんだか安心感もあるし。
 
駅に戻ると午後1時を過ぎていた。駅の西側に出たところにある、ビルの1階に飲み屋が2軒並んでいる。店頭のメニューを見てどちらにしようか考える。片方もお店は「くずし割烹」と称し、少し小ぎれいで、カニなど福井の名物を前面に打ち出し観光客も意識したメニュー構成。もう一方は、赤提灯系の地元のおじさんが、昼間っからとぐろを巻いていそうな店構え。迷うことなく、赤提灯系に入る。
 
先客は、観光客と思しき、二人連れの女性客が2組、テーブルでお昼の定食を食べている。カウンターには、地元の常連さんらしきおじさんが4人、それぞれ飲んでいる。私はカウンターの一番端のレジ前の席に通される。レジ前は嫌だなと思ったが、初めての店なので仕方ない。大人しく座る。
 
「ランチですか、お酒飲みますか?」と聞かれ、「お酒お願いします。」ときっぱり。燗酒は何がありますかと聞くと、一富士と一本義があるとのこと。聞いたことない名前だったので、一富士の大徳利を注文。
 
つまみは、シメサバとモツ煮込み。金沢だとおでん屋さんで牛スジ煮込みは定番だが、モツ煮込みを出す店はあまりない。お通しで出された、魚のアラと人参などの野菜を甘く煮たものを摘みながら一富士を飲む。
 
シメサバには紅生姜が乗っかっていた。大阪の立ち飲み屋のような庶民的なシメサバだ。モツ煮込みは、モツの香りが少し残り赤味噌で煮込んでしっかりとした味付け。どちらも熱燗に合う。さっき購入した「開高健短編選」の「パニック」を読みながら、ちびちびお酒を舐めるように飲む。読んでいる途中に、「そういえば、開高健って福井県と関係があったはずだよな。」と思い出す。「でも出身地は大阪のはずだし、どうだっけ。」と一人でブツブツ言いながらiPadで検索する。ウイキペディアによると開高健の祖父母が、福井県坂井市丸岡町の一本田の出身とある。2年前に亡くなった叔母が丸岡町に嫁いで一本田に住んでいた。お葬式で丸岡に行った時に開高健の文学碑を見たことを思い出す。
 
大徳利を空けて、いい具合に酔ったところで店を出る。せっかく福井まで来たのだから、おろし蕎麦を食べて帰ろうと駅の近くの蕎麦屋さんに入る。メニューを見ると、お酒とつまみもあるのでもう一度飲もうと一瞬頭をよぎったが、思い直して、おろし蕎麦と焼き鯖寿司のセットを発注する。
 
コシのある太めの麺を大根おろしにつけて、さっぱりと食べる。蕎麦湯も飲んだら満腹になった。
 
15時09分福井駅始発、金沢駅行きの普通列車に乗る。金沢着は16時40分。もうすでに暗い。駅は年末の買い物客と観光客で大にぎわい。妻に頼まれていた、キャンベルのクラムチャウダーの缶詰とフランスパンを買い、酔い覚ましも兼ねて家まで歩いて帰った。