ラディカル・マーケット 脱・私有財産の世紀

新自由主義経済学は、格差と引き換えに経済成長が進むことを約束していたが、現在は、成長率の減速と格差の拡大が同時に進行する状況にある。これを著者は「スタグネクオリティ」と呼び、現在の市場経済が解決すべき問題と位置付ける。
 
著者は「スタグネクオリティ」を解決のための5つの方策をあげる。現在の仕組みから見ると、野心的な方策で、まさにラディカル。
 
最初に説明されるのは、「共同所有自己申告税(comon ownership self-assessed tax=COST)」という仕組み。これは、自分が所有している土地・建物の評価額を自己申告し、それに一定の税率をかけた税金を支払う仕組み。評価額を低く設定すれば、支払わなければならない税金も安くなる。しかし、自己評価した金額で他の誰かが買いたいと手を挙げた場合には、所有者は自分が評価した金額で売却しなければならない。税金を安くしたいがために自宅の評価額を不当に下げると、誰かに自宅を売らなければならない事態になる。
 
この仕組みにどんなメリットがあるのか。土地・建物などの資産を一番有効に活用できる人が、使用する権利を取得することになるので、活用されていない資産が、有効に活用されることで、全体の経済成長が進むという。都市の再開発を進めれば全体が良くなるのはわかっているのに、一部の土地所有者が売却を拒むために話が進まない、というような事態を避けられるのだ。
 
著者の提案は、さらにラディカルに、COSTを人の所得税にまで拡張すべきだという。各人が自分の能力を評価して、それに見合う収入を申告するのだ。申告した収入に税率をかけた額を税金として支払わなければならない。また、自分が申告した収入で雇いたいという人がいれば、働かなければならない。これは能力がある人を目一杯働かせる仕組みだ。
 
資産や人の能力を、所有者が抱え込んで死蔵することがないようにする仕組み、社会で共有して有効に活用しようという仕組みだ。
 
家の評価を低くしすぎて、持ち家を追い出されたり、給料の評価を安くして、働きたくもない会社で働くことになったりと、あまり幸せになれないような気もするが、既得権益者だけがおいしい思いをして格差が拡大して、どん詰まりになっていることを考えると、こんな手もありなのかと思う。
 
他にも、選挙ごとに一票を与えるのでなく、複数票を与えて、どの選挙に投票するかについても選べる仕組みや、個人が移民の身元引き受け人になれる制度など、実現できるのかどうかはともかく、どれもラディカルに資本主義を改革する制度。面白い。
 
資本主義は自由放任で放っておけば全てうまくいく訳でなく、制度を維持していくためには、慎重に管理していかないとうまく機能しないというのは、「セイヴィング キャピタリズム」と通じるお話。