ブッダが説いたこと

著者のワールポラ。ラーフラは、スリランカ生まれの僧侶。子供の頃から僧侶としての教育をうけ、僧侶として活動するとともに、セイロン大学、カルカッタ大学で学び、フランスのパリ大学へ留学し、フランス人の仏教学者ポール・ドゥミエヴィルのもとで近代的な仏教研究を深める。その時に書かれたのが、この「ブッダが説いたこと」だ。

 
僧侶として仏教を実践し、かつ、西洋人と接しながら仏教を研究した人だけあって、大変わかりやすい。仏教の基本的な教え、四聖諦、八正道、カルマ、縁起、無我などについて一通り論じてあり、丁寧に解説してくれる。
 
一番印象に残った部分は、この世で生きる苦しみ=ドゥッカについて説明した部分。
「苦しみは存在するが、苦しむ主体は存在しない。行為は存在するが、行為主体は存在しない。」移ろいの背後に、自らは移ろうことがない移ろいの主体はいない。ただ単に移ろいがあるだけである。人生は移ろうというのは間違っていて、人生は移ろいそのものである。
 
確固とした我が存在して、行為したり、苦しんだりするのではない。行為や苦しみがあるのみ。我などという主体は存在しないというのが、仏教の大原則なのだ。つまり「我思う、故に我有り。」のデカルトの考えとは全く異なる考え方。
 
道元の「正法眼蔵」に、「行く人は行かない。」というフレーズがあった。人という実態があって、その人が歩くのではない。歩くという行為がなされるだけだ。それも同じことを言っているのだと思った。
 
八正道を3つのカテゴリーに整理して説明している部分もわかりやすい。
八正道というのは、ニルバーナに至るための方法で、快楽を追求するのでもなく、逆に禁欲を突き詰めるのでもない中道を目指す。具体的には、以下の8つを守りなさいということ。
(1)正しい理解
(2)正しい思考
(3)正しいことば
(4)正しい行い
(5)正しい生活
(6)正しい努力
(7)正しい注意
(8)正しい精神統一
 
著者はこの八正道は3つに分けられるという。
倫理的行動→(3)正しいことば、(4)正しい生活、(5)正しい生活
心的規律→(6)正しい努力、(7)正しい注意、(8)正しい精神統一
叡智→(1)正しい理解、(2)正しい思考
 
八正道とは、叡智を身につけ心的規律を守って倫理的行動をなせ、ということなのだ。
 
数年前から少しづつ「原始仏典」を読んできたが、無闇に読み進めるだけでなく、このような解説書も合わせて読むと理解が進むと思った。
 
ブッダが説いたこと (岩波文庫)

ブッダが説いたこと (岩波文庫)