罪と罰

貧しさのため大学をやめざるをえなくなったラスコーリニコフが金貸しの老婆とその妹を斧で殺害する。何故か。 社会の役に立たない老婆を殺して金を奪えば、そのお金で将来有望な若者が大学に通うことができる。偉大な目的のためには小さな悪は正当化される。…

美術の物語

古代エジプトから現代までの美術の歴史を丁寧に語る。建築、絵画、彫刻が網羅されている。しかも、本文に登場する作品の図版が全て掲載されているので、本文と図版を行ったり来たりしながら何度も確認できるので大変わかりやすい。 ふとした弾みで購入したも…

高島野十郎画集 作品と遺稿

高島野十郎は福岡県出身の画家、1890年生まれ。生涯、解像度の高い写実の絵を描き続けた人。テレビの「なんでも鑑定団」で紹介されていた蝋燭の絵と月の絵が非常に気になり画集を買ってみた。 蝋燭の絵は、蝋燭がひとつ暗闇の中で灯っている。親しい知人に渡…

精神の危機

ポール・ヴァレリー(1871ー1945)はフランスの詩人、作家、批評家。この本は19世紀以降、科学技術万能となり、大衆化したヨーロッパの精神が危機的状況にあることを憂えた評論集となっている。第一次世界大戦を経験した観点から独裁にたなびく社会の流れも…

ロンドン・ペストの恐怖

「ロビンソン・クルーソー」の著者ダニエル・デフォーが1665年にロンドンでペストが大流行した時の様子を淡々と描写する。 「私」がペストが猖獗を極めるロンドンを歩き回り、その様子を綴る体裁になっている。しかし、デフォー本人は1660年生まれであり、ペ…

ゾルゲの見た日本

ゾルゲがドイツの新聞記者として発表した日本に関する記事とロシアのスパイとして本国に送った通信文が収録されている。 「日本の軍部」という記事の冒頭に この重大な情勢下で日本には政治の指導者がいない。すでに多年来、政府は内蔵する力も決意も持たな…

世界マヌケ反乱の手引書 ふざけた場所の作り方

お金がなくても楽しく生きていける場所を作りましょうという本。そのための具体的な方法を教えてくれます。 まずは、大晦日の山手線の中で勝手に宴会する。一升瓶とちゃぶ台を車両に持ち込んで、「あけましておめでとう。」とか言いならが電車に乗り込んで来…

須賀敦子全集 第3巻

「ユルスナールの靴」、「時のかけらたち」、「地図のない道」のほか、1993年から1996年に発表されたエッセイが収録されている。 「時のかけらたち」の中の「ガールの水道橋」が良かった。日本のフランス語学校で、フランス人のジャックと知り合いになる。ジ…

夜明けの約束

著者のロマン・ガリは、1914年にリトアニアでユダヤ人の両親のもとに生まれる。父親はロシア軍に入隊し、母ひとり子ひとりの家庭で育つ。12歳の時にワルシャワへ引っ越し、14歳の時に母ともどもフランスに帰化する。第2次世界対戦では自由フランス軍に参加…

プラハの墓地

「シオン賢者の議定書」という20世紀初め頃に流布され、世界中に大きな影響を与えた文書がある。史上最悪の捏造文書とも言われるもので、ユダヤ人の指導者たちがプラハの墓地に集まって行った秘密会議の内幕を描き、その会議で、ユダヤ人が世界支配を目指…

肉じゃがと鯖の味噌煮

野崎洋光さんの「美味しい法則」を見ながらその通り作ってみました。 この本では、肉や魚、野菜も調理する前に一度お湯をくぐらせることを勧めている。アクも取れるし味も染み込みやすくなる。 肉じゃがは、ジャガイモも人参も糸こんも湯通しする。その後に…

移民の運命 同化か隔離か

「イスラーム世界の論じ方」の中で、池内恵さんが言及していた本。 著者のエマニュエル・トッドは人類学者で、フランスの国立人口統計研究学院資料局長。 移民がどのように受け入れられるかは、受入国側と移民側それぞれの社会システムによって決まる。社会…

増補新版 イスラーム世界の論じ方

この本は、2004年から2016年にかけて著者が新聞や雑誌、学術誌などに発表してきた文章をまとめている。一般の読者向けにわかりやすく書いたものから、専門家向けの少し歯ごたえのあるものまで収められている。 著者が本書で何度も繰り返し言っているのは、 …

私的昭和史 桑原甲子雄写真集

この写真集、見始めると1時間くらいあっという間に過ぎます。 昭和10年頃の東京の街の写真です。ふらりと街を散歩しながら、その頃の東京の日常を切り取った写真。看板の文字や人々の服装をじっくり見ながら、子どもの頃、親に連れて行ってもらった東京の様…

岩波講座 日本歴史 第6巻 第7巻

第6巻は院政期から治承・寿永の乱、鎌倉幕府の成立あたり。第7巻は鎌倉時代と建武の新政を扱う。治承・寿永の乱というのは源平の戦いのこと。最近はこういうらしい。 律令体制が確立したのち、権力の中心は、天皇家から、摂関家、院、武家政権へ移行する。武…

マネー・ボール 完全版

メジャーリーグ、オークランドアスレチックスのゼネラルマネージャーが、どうやって、乏しいお金でプレーオフに出場できるような強いチームを作ったかというお話。 まず、野球というのは、できるだけアウトを取られずに攻撃し続けることを目指すゲームだと考…

すごい物理学講義

一般相対性理論と量子力学を統一して説明する重力量子理論の一つである「ループ量子重力理論」を解説する。空っぽの空間があり、その中で素粒子が動いているのではなく、空間自体が粒状になっているという考え方。粒状ということは空間にも、原子のようにこ…

ライト兄弟

今さらライト兄弟の伝記なんて、と思ったがアメリカでベストセラーになったというので読んでみた。今まで知らなかったことや意外なことがたくさんあって面白かった。 ライト兄弟は、1899年から飛行機の研究を始め、1900年から1902年にかけての3年間は飛行機…

薔薇の名前

舞台は1300年頃のイタリアのとある修道院。そこで修道士が殺される。院長はフランチェスコ会の修道士ウィリアムを招き事件の調査を依頼する。ウイリアムと彼の弟子アドソは修道院内で調査を始めるが、その中でも次々と修道士が殺されていく。事件の鍵は古今…

阿含経典 3

増谷文雄が阿含経典の中から重要なものや、釈尊の言葉をよく伝えている文章をを選んで解説し現代語訳したもの。中部経典と長部経典、釈尊の入滅を扱う。 中部経典の一夜賢者経から、 過ぎ去れるを追うことなかれ いまだ来らざるを念うことなかれ 過去、そは…

自由への旅

ミャンマーの上座部仏教の僧侶であるウ・ジョーティカ師が、ウィパッサナーと呼ばれる上座部仏教で伝統的に行われている瞑想法の詳細を述べた本。オーストラリアで行われた瞑想についての連続講義をまとめたもの。仏教のバックグラウンドがないオーストラリ…

父 吉田健一

吉田暁子さんが、父である吉田健一との思い出を綴った本。 吉田健一の旅の随筆を読むと、汽車の乗る前から銀座の小川軒で酒を飲み始めて汽車の中でもずっと飲み続けて、目的地の宿に入ってからも飲んで、次の日も飲んで、帰りの汽車の中でも飲む。とにかく呑…

岩波講座 日本歴史 第5巻 古代5

ようやく平安時代の院政期まで読了。今から約1000年前だ。縄文時代の前から歴史を通読してくると、1000年前が身近に感じる。たった30世代前のことじゃないか。 律令制度によって確立した天皇を中心とする公的な政治の仕組みが、有力寺社や摂関家などとの私…

仏教思想のゼロポイント(再読)

目で見る、耳で聞く、鼻で匂う、舌で味わう、肌で感じる、頭で意識する。感覚器官から入ってくる刺激に対して、人は常に、快く感じる、不快に感じる。好きだと思う、嫌いだと思う。自分にとっていいことか悪いことなのか判断している。その判断をもとに、そ…

イワン・イリッチの死

イワン・イリッチ はロシアの官吏として、そこそこの地位と収入を得て、そこそこ綺麗でそこそこの家柄の女性と結婚する。関心事は仕事での出世と快適な私生活。子供ができて家庭生活の面で奥さんとのゴタゴタが絶えなくなると、世間体を保つ上で最低限の役割…

土井善晴の定番料理はこの1冊

片岡義男の「洋食屋から歩いて5分」の中に料理本を紹介する文章があって、その中でこの本を紹介していた。片岡によれば、この本のレシピの通りに作ると普通の家庭料理が驚くほど美味しくなる、というのだ。 本の最初に登場するポテトサラダを作ってみた。材…

中動態の世界 意志と責任の考古学

現在の英語であれ日本語であれ、文法上は「私は〜する。」の能動態と「私は〜される。」の受動態の2つに分けて考える。しかし、はるか昔には、の能動態に対応するものとして中動態という形式があったそうだ。 能動態と受動態というのは、「私は意志を持って…

死すべき定め 死にゆく人に何ができるか

父は8年前に肺癌で亡くなった。6月の終わり頃に腰の骨を骨折して入院している時に首回りのリンパ節の腫れに気がついて念のためということで検査したら、末期の肺がんであることがわかった。先生にはもっても3ヶ月から6ヶ月でしょうと言われた。8月くらいま…

絶叫委員会

映画や小説の名台詞、歌謡曲の歌詞、日常会話、街頭演説、電車の吊り広告の見出し、怪しいメール、妻の寝言など、偶然生まれたインパクトある言葉をいろんなところから拾ってきて紹介する本。 美容室などで頭を洗っている時に、「おかゆいところはございませ…

洋食屋から歩いて5分

日曜日から続いていた脇腹の痛みの原因が帯状疱疹だと判明して、明るい気持ちで病院を出ると、雲ひとつない五月晴れ。犀川の河原にでも行って木陰でビールを飲みながら本を読もうと玉川図書館でそんなシチュエーションにふさわしい本を物色する。 難しい内容…